二日酔いと貧血と共に

キッチンドランカー東京OL(常に貧血)

今日はストロベリー味

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毎度口にする前に同じ動作を繰り返す。袋に手を押し込み、どれにしようか、目を閉じたまま指先を踊らせる。胸も躍る。これだ。目を開けると、オレンジ。一番引き寄せたくはなかった味である。ペコちゃんの飴のお話です。酒で火照った顔面を少し落ち着かせようと、ダブルベッドに横になりながら窓を開けた。4月なのに冷たい風は頬を心地よく刺激する。外気により徐々に低下する自分の体温が愛おしく感じる。明日は仕事だというのにこんなにも余裕があるのは、在宅勤務のせい。なんだか気持ち良い夜なので、もう一本飲んでから寝ようと思う。そんな私の身体はすでにベッドの中なのだから、夢現なのか酔っているのか。閉店間際の本屋で小説を買った。昨日。貪るように読んだ今日。本の世界に引き込まれるのがすき。たくさんの人の世界に実際に触れることは物理的に難しいけれど、本はそれを一部可能にしてくれるように思える。この一冊に詰まっている世界をのぞいて、それが自分の一部になっていく感覚がまた、とてもすき。もう完全に冷え切っている。窓を閉める時にキュルキュルと音が鳴り、静かな夜の空に似合わないなと思ったの。充実している時って、目に映る全てに意味があるように思える。ベランダで育てているミント、ふと目にした看板の文字、街中の雑音。反対に気持ちが落ち込んでいる時は全てが鬱陶しく感じる。人にも冷たく接してしまう。電車を降りエスカレーターに続く列で、前方から来た女性とぶつかった。ごめんなさい。申し訳なさそうな彼女に対し、硝子に映った私は怪訝な顔をしていたことに気がつき、いえ、こちらこそすみませんと言った。彼女からの謝罪がなければ、私はあの顔のままエスカレーターに乗り、改札を出て、買い物をして家に帰っていたのかな。恥ずかしくなった。こんなに器の小さい人間じゃなかったのに。東京に住むようになってから、何かが変わってしまった。お金と安定は手に入ったけれど、街のスピードに慣れれば慣れるほど、私の嫌いな種類の人間に近づいていく。そんな怖さが、たまにある。スーパーでの会計後、買い物袋に商品を詰め込む私の横で老婦人が私に話しかける。商店街の福引き、もうされましたか?全然当たらないの。今日が最終日でしょう。たくさん人が並んでいるでしょうね。私は、さっきそこの前を通った時にらあまり人はいませんでしたよ。今日が最終日なんですね。当たるといいですね。と返した。すると老婦人は嬉しそうに他愛もない事を饒舌に話すものだから、私も相槌を打った。しばらくすると、引き止めてごめんなさいね。若い方とお話しするのは久しぶりで、嬉しかったんです。どうもありがとう。と、去っていった。こちらこそ、楽しかったです。そう伝えると老婦人はとても優しい顔で笑い、控えめに手を振り去って行った。私はこの一連のやり取りに、最近忘れていた大事な事を思い出した。